命を預かる 和牛飼育 食育 2023年6月18日再掲
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牛さんと共に 牛さんへの想い  とちぎの和牛を考える会
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わたしは黒毛和牛の繁殖を生業としています。

母牛から子牛を生ませて9ヶ月から10ヶ月育てて繁殖の母牛の素牛にしたり、 和牛肉の素牛になったりします。

命を預かる重い仕事と思っています。 牛の命を想うと辛いことも多くあります。

牛を飼うことは生活のためだけど、生き物と共に生きているとお金のためだけではない。

大切に育てた子牛は一つの命です。

栃木県矢板子牛市場に子牛を売りに行き手放す時は、十か月一緒に暮し、懐いて信頼していた子牛を裏切るような切ない気持ちで泣いてしまいます。夫には「経済動物なのだから割り切るように」と言われますが。

♪ドナドナドナ 原曲 ジョーンバエズ

ある晴れた 昼下がり 市場に続く道 荷馬車が ゴトゴト子牛を乗せてゆく 可愛い子牛売られてゆくよ 悲しそうな瞳で観ているよ ドナドナドナ 子牛を乗せて ドナドナドナドナ 荷馬車が揺れる

青い空 そよぐ風 つばめが飛び交う 子牛よそれ見てお前は何思う もしも翼があったならば 楽しい牧場に帰れるものを ドナドナドナドナ 子牛を乗せて ドナドナドナドナ 荷馬車が揺れる

牛は寒さに強い動物と言われますが本当にそうなのかな、子牛たちは雪が降ると背中に雪が積もっても平気で外の運動場で遊んでいます。 楽しそうに。
そういう真冬の寒さ、氷点下3度5度という凍るような夜でも朝にも子牛は生まれます。

出産予定日の一週間ぐらい前から母牛を分娩室に移し、藁ともみ殻を敷いて産屋をいつもきれいに整えて分娩に備えます。 出産はいつか分からない、予定日より早い牛もいる予定日より10日以上遅れる牛もいてその間は夜中にも必ず牛舎に様子を観に行きます。春夏秋も真冬の吹雪の夜でも欠かせません。もしも行かなくて何か分娩異常があった時など大きな失敗になりますから必ず観に行きます。

親牛は自力で出産できる本能は持っています。が正常な母性で出産は微笑ましいです。生まれた子牛を観ると出産の苦痛も痛みも疲れも何のその母親の役目をします。すぐに羊水で濡れた子牛を舐めて濡れた体を乾かします。舐め続けて、それは子牛の血行を促すマッサージでもあります。子牛が元気に育つために母牛は動物の習性を持っているのです。

生まれて一時間ぐらいすると子牛は立って母牛のお乳を探し見つけてお乳を飲み始めます。お腹いっぱいになると満足して親子はゆっくり寝て過ごします。 これが普通の繁殖和牛の出産です。

それでも分娩が重い時は獣医さんを頼んで引っ張り出す時もあります。無事生まれると一安心。

けれど問題は、初めて子牛を生む母牛でも何度も出産を経験した母牛でも牛によっては母性が無いのか育児放棄をする牛がいます。生まれた子牛をどうしたらよいのかわからないのか、自分が産んだ子牛と認識しないのか、蹴ったり頭で突いたり舐めることもしないでお乳を飲ませない母牛がいるのです。

その時は子牛の命の危険もあります。安全のために生まれたばかりの子牛を枠を作り親から離して人工哺乳にします。 ミルクは生まれた数日は免疫抗体を作り抵抗力を高める成分の多い親の成分に近い加工の初乳を飲ませます。

毎朝夕一日二回。初め1リットル 4日目ぐらいから1.5リットル 10日ぐらいから2リットル その後様子を観ながら3リットルにして粒餌と乾草と水を普段給餌でいつでも自由に食べる習慣を付けます。

いつも美味しいミルクを持ってくる人を母親だと思って人にも懐いて可愛いです。お乳を飲み終わっても指に吸い付いてきます。人工哺乳も子牛を育てる良い点かもしれないです。

親子でいると寒い冬も親の体温で暖かいですが、子牛だけで過ごす人工哺乳の子牛にはベストや毛布を着せて、敷き藁を多くして寒さから保護します。

同じころに生まれた子牛はいつも仲良しでいつもそばにいて一緒に行動し一緒に育ちます。

こんな微笑ましい姿も見られます。懐いているので近付いてカメラを向けても平気なのよね

繁殖和牛素牛の母牛と元気に大きく育ってほしい子牛の栄養管理も大切です。

良質の乾牧草の給餌は大切です。そのための牧草収穫作業は天候を見極め晴れが続く日を選びます。

親しくお付き合いいただいてるフランス人の方がいます。田植え作業を見ていたり牧草収穫作業をいつも興味深く見ていて日本の農業の便利さと仕組みに感心しています。

フランスでは牧草地に牛が放牧されていて生の青い草を自由に食べている光景が普通なのに、日本では牧草地に牛の姿が見えないね、それは何故? と。

こんなに広い牧草地が有ったらたくさんの牛が食べられるのに、どうして青い草を乾燥させてロールしてラッピングしているのか不思議だと。 放牧で牛を飼うのは牛には幸せでしょうね。

一度に多くの牧草を収穫して置くと寒い冬の牧草の無い時期でもいつでも食べさせられて安定給餌のためと省力化のためでもあるのです、と説明しました。

那須地域では黒家和牛繁殖地域と乳牛の酪農地域があります。和牛は家庭的な雰囲気の飼い方、乳牛は近代設備を駆使しコンピューター制御で牛の個体管理をしています。 経営も100頭200頭単位は普通規模です。 それなので乳牛は生き物という概念ではなく牛乳を生産する企業的な経営です。

そして今は酪農家さんでも黒家和牛の繁殖を経営に加えていることも多くなりました。

黒家和牛の牛肉は、高級な食材としてグルメ番組や雑誌でもてはやされメディアや雑誌で紹介されたり海外輸出も盛んになりました。外国の牛肉には無い特別な味わい、脂肪交雑サシという絶品だから。

当たり前に食べる牛肉も豚肉も鶏肉も魚も命がある生き物だということを忘れてはいけない。 命があり生きていたものの命をいただいて、人の命を繋いでいるということを忘れてはならない。

お肉や魚を食べる時生きている姿に想いを馳せ 「いただきます ありがとう」 という感謝を忘れてしまっては、命の先は人に食べられる定めの牛を飼う事は失格だと思う。

美味しくいただく 命をいただく 元気をいただく それで命を提供してくれた生き物の命が報われると思うから。

子供たち若者たちはいつでも美味しい食材が手に入り食べられるのが当たり前に思っている今の世の中、命をいただくことに感謝を教えることは大切な食育だと思うのです。

繁殖和牛経営は家族的だと言いましたが、子牛を健康で順調に育て母牛も安定した一年一産をできるためには毎日の細やかな飼養管理の気遣いと目配りが大事です。

牛を飼うことは365日休みなし、労働時間も決められない 一日8時間労働なんて言ってられない 深夜も早朝も徹夜もあり時間外労働は当たり前 週休二日もない 

生き物への思い遣り 愛情 気遣い 献身 それが命を預かる生業の基本なのです。

経営主一人では到底できない。 通常は家族三人で給餌と牛舎の掃除をしています 主人ができない時は妻と娘がする、労働時間や用事や留守を補い合いながら毎日の作業と飼養管理をする 誰かいなくてもいつものように仕事が補える それは牛に対する想いや技術が同等であることが必要であることが求められる。

旅行や行事やお付き合いで家を留守にするときお互いに信頼して牛を任せられる家族が必要なのです。

そういう家族関係で良い子牛を市場に出し経営も安定する、それが繁殖和牛農家の生活だと思います。

そして、何よりも毎日の仕事に張りあいが持てるのは地域に同業の同年代の友人たちがいること。 経営主たちは経営主たちと仲間での飲み会をもち情報交換や技術向上の核心的な意見の交換があります。

女性たちも女性たちで食事会に誘い合い日常の他愛もない話や時には相談事もあったり親交が深い心許せる仲間がいるということもこの仕事を続けている励みになっていることは確かなこと。

牛を飼うことは生活のためだけれどそれだけではない 生き物と共に生きていることはお金のためだけではない目に見えない大きな効力があると思う。

牛に生かされている。 牛の世話をすることで健康を維持できている。

「牛にリハビリをしてもらっている」 と主人は口癖のように言います。 それは牛がいなかったら今の様な元気でいられなかったかも、体力や筋力や気力も衰えて本当の老人になっている、 だから牛にリハビリしてもらっているのです。

重労働の牛の命を担う今の仕事を 「いつまで続けられるか、いつまで現役でいられるか」 この地域の同業の同じ年代の人たちの合言葉のようについこの言葉が口に出る.。

 「できるまで 遣れるまで 」 と笑い合う。 共に生きる家族がいて解り合える仲間がいる。

自然の中で、自然に癒されて、 四季折々の自然風景 季節に咲く野の花 木々の花 鳥やとんぼや虫たち 青い空 流れる雲 輝く太陽 沈みゆく夕陽 刻々変わる夕暮れのあかね空みて感動する。

自然の中で生きている嬉しさをしみじみと実感するとき 不思議な満足感がある

農業が好きな人はみんな この自然の素晴らしさを知っている この自然の中で生きることが好きなのだ

仲間がいて 牛を飼う歓びと 命を預かる使命と 命をいただく感謝 で この生業を続けている。

那須の里山花図鑑